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さようなら山の上ホテル 後編

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私の実家には、砂利が敷かれた小さな裏庭がある。私は子供の頃によくこんな夢を見た。
学校の友達の大事な宝物を預かって、誰にも見つからないようにして欲しいと頼まれる夢だ。
私は自分の親や家族に見つからないようにしなければならず、裏庭に穴を掘って埋めるのだった。
そんな事をすっかり忘れて大きくなった私は、その夢の中で宝物の事を思い出すのだった。
まずい、友達の宝物を埋めたままだった。返さなきゃ。まだあの庭にあるはずだけど、本当に埋めたっけ?
と、不安に駆られる夢だ。



結婚式の披露宴で、私は友人代表のスピーチを頼まれ、ほとんどアドリブだったが割とうまくいった。
披露宴の終盤、新婦からご両親への手紙に感動した。こういう場に相応しい感想では無いかもしれないが、文章の才能があるな、と感心した。
新郎の挨拶にも感動した。たどたどしく、慣れない口調で一生懸命スピーチする彼の姿を見て、彼らしい誠実さが伝わって来た。
そして新郎新婦&ご両家両親が退場した後、最後に新郎自作のスライドショーが上映された。
新郎と新婦それぞれに、産まれてから今日までの写真をかき集めて、時系列に並べて編集したやつだ。変な髪型をした20代の私も途中で登場した。
懐かしい。当時の記憶がフラッシュバックした。
そして、新郎と新婦が出会ってからは、それぞれのタイムラインが重なり、最近の2人が並んだ写真が写し出されてゆく。
スライドショーのBGMは、くるりの『奇跡』という曲だった。これもいい曲で感動した。
ああ、素敵な2人だな、幸せになれよ、と思うと同時に、不思議な感覚に襲われた。

このスライドショーの新郎のパートの中で私が何度か登場したわけだが、つまり、その部分だけ切り取ってみると、当時の私のタイムラインでもあるわけだ。私は当時の写真を一枚も持っていないということもあり、何だか急に、あのタイムラインは、あの後どうなってしまったのだろうか、別方向では、新郎新婦が結婚するに至っているが、私のタイムラインの行方がどうなってゆくのか、全くわからなくなってしまったのだ。

要するに、その場にいる自分自身と、あのスライドショーの中の自分が繋がらない。
迷子だ。これが本当の思い出迷子というやつなのか。


翌朝、眠れないままシャワーを浴び、シャツを着替えて、ホテル内のレストランで朝食を済ませた。

この日は私の愛娘の2歳の誕生日だった。
さっさと上越新幹線に飛び乗って、ハッピーバースデーを歌いにいかねば。

でもね、お父さんね、
ちょっとね、
行かなきゃいけない所があるのね。
お父さん的に大事なことなのね。
アンパンマンよりも、ドーナッツよりも、
大事なことなのね。
だからね、
もうちょっと待っててね。

と、心の中で詫びながら、引出物の袋をぶら下げて、中央線に飛び乗り、新幹線が発着する東京駅とは真逆の新宿方面に向かった。

私のタイムラインを確認する旅だ。
あの頃住んでいた場所、よく行った店、通り道、自動販売機、覚えている看板やガードレールの落書き。
もうすっかり無くなっている可能性は高いが、確かめにいかなければならないと思った。

イーゴン、ゆかりの地を歩く。

今考えるとただの『ウチくる⁉』である。

私は、10年前と今とを繋ぐ記憶、10年間の大切な思い出を確かめたかったのだろう。

まずは、妻に電話した。
これこれ、こういった事情で、とにかくこれからゆかりの地を見てくるから。と。

そう告げると、妻は『いいなー。』と言った。



完結編につづく

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