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蟹の爪

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残業を終えて深夜、スマートフォンのライトで足元を照らしながら真っ暗な道を駐車場に向かって歩いていた。

駐車場には私の車しかなかった。ああ、私は今日も働きすぎたのだな、と思った。

とぼとぼと車に向かう途中、パリ、と、カタツムリを踏んづけてしまったような異物感を靴底に感じて、恐る恐る足を上げると、私の体重のせいで割れてしまった赤い蟹の爪がコンクリートの上でつぶれていた。

駐車場で蟹を食ったやつがいるのか、と思った。



車で15分の帰路の中で、あの蟹の爪のことを思った。

蟹の甲羅や脚の殻は落ちていないことから、おそらく、ごくたまに見る、蟹クリームコロッケのリッチなやつ(コロッケから蟹の爪が飛び出しているようなアレ)がはいったお弁当を、駐車場に停めた車の中で食べたやつがいたのだろう。そいつはその蟹クリームコロッケが好きで、一番最後にたべたのだろう。きっと、食べ終わっても名残惜しくて、しばらくのあいだその蟹の爪を口にくわえたまま、スマートフォンなどを見て暇つぶしをしている時に、突然取引先から電話がかかってきてびっくりした拍子に口にくわえていた蟹の爪を地面に落としたかなんかした、そんなとこだろうと空想した。


深夜だ。

帰宅すると、晩御飯が用意されていた。いつも妻が用意してくれている。

「ガスの元栓を閉めること」と書かれたポストイットが味噌汁茶碗に貼られていた。

先日、味噌汁を温めなおそうと火をかけたまま、テレビに見入ってしまって、完全に味噌汁を蒸発させてしまったことがあった。それゆえのこのポストイットだ。

「火の用心。」と、小声でつぶやき、まずは味噌汁を温めなおすことにした。

コンロに火を点ける前に味噌汁の鍋のふたを開けると、茶色い汁の中に蟹の爪があった。蟹の味噌汁だった。

なんだか、何かのお告げのような、何かの呪いのような、もしくは、誰かからのサプライズのような気がした。



明日の朝出社したら、あの蟹の爪はまだ駐車場にあるだろうか。

もしまだあったら、何らかの供養的なことをしてやろう、と思う。

補足とコメント

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